循環器専門医の考える、血液をさらさらにする薬の選び方
血液をさらさらにする薬は、いろいろな種類があります。
コレステロールを下げる薬を血液さらさらの薬と呼ぶこともありますが、医学的には、抗血栓薬(抗血小板薬と抗凝固薬)のことを血液をさらさらにする薬と呼ぶように思います。ですので、血はとまりにくくなりますが(出血リスクはあがりますが)、血管がつまるリスクを下げることができます。そして、抗血栓薬を飲んだほうがメリットがある場合に、抗血栓薬は処方されます。
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抗血栓薬には、抗血小板薬と抗凝固薬の2種類があり、この2つが使われる状況は基本的には別と考えてよいと思います。(併用されることもあります。)例えば、心房細動という不整脈は心臓の中で血栓を作りやすく、大きな脳梗塞の原因になることが知られています。心房細動の方は抗凝固薬を内服する必要があり、残念ながら抗血小板薬では血栓の形成を十分に抑えることができません。一方で、狭心症や脳梗塞などでは一般的には抗血小板薬が使用されます。
抗血小板薬とは?
抗血小板薬は、血小板の働きを抑えることで血栓を防ぎます。血小板は血管が傷ついたときに出血をとめる役割があり、絆創膏のような働きをする血球とも説明されます。
抗血小板薬は、主には血流の速い血管(動脈)での血栓を予防します。ですので、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞の予防に使われます。
主な抗血小板薬
COX阻害薬
アスピリン
よく使われる抗血小板薬であり、エビデンス(医学的根拠)も豊富です。胃の粘膜を痛める可能性があるため、多くの場合は胃薬(PPIやPCABなど)が一緒に処方されます。胃の調子がいい場合でも、アスピリンを内服する場合には胃薬との併用が推奨されていますので、内服するようにしてください。
P2Y12受容体拮抗薬
チクロピジン(パナルジン)
第1世代のチエノピリジン系抗血小板薬です。副作用の懸念もあり、新しいお薬の出現に伴い、ほとんど使用されなくなりました。
クロピドグレル(プラビックス)
第2世代のチエノピリジン系抗血小板薬です。P2Y12受容体に非可逆的に結合し、抗血小板作用を発揮します。肝臓で代謝を受けて活性体となります。CYP2C19の遺伝子多型のある方などでは、効果が減弱する可能性があります。5)
プラスグレル(エフィエント)
第3世代のチエノピリジン系抗血小板薬です。P2Y12受容体に非可逆的に結合し、抗血小板作用を発揮します。肝臓で代謝を受けて活性体となります。クロピドグレルよりも速やかな効果の発現が期待できます。
チカグレロル(ブリリンタ)
P2Y12受容体に可逆的に結合し、抗血小板作用を発揮します。上記の薬と違い、肝臓での活性化のステップが必要ありません。そのため、効果の発現が速く、内服をやめたあとの効果の消失も他の薬よりも速いことが特徴です。
※クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロルはそれぞれに特徴があります。世代の新しい薬が必ずしも優れている、というわけではありません。実際の処方にあたっては状況により、メリットや出血リスクなどのデメリットなどが総合的に判断されます。
PDE阻害薬
シロスタゾール(プレタール)
抗血小板作用に加え、血管拡張作用も期待されます。狭心症や脳梗塞、下肢閉塞性動脈硬化症3)においても用いられることがあります。頻脈や頭痛が起こることがあります。
1次予防としての抗血小板薬
脳梗塞や心筋梗塞のリスクを減らすことができるならば、全員が抗血小板薬を飲んだほうがいい、と考える方がいらっしゃるかもしれません。
動脈硬化の病気がはっきりとしている人(狭心症や心筋梗塞、脳梗塞と診断された人など)以外の方・健康な方が抗血小板薬を予防的に飲むことは推奨されていません。これは、病気の予防効果よりもむしろ、出血などの副作用のデメリットの方が大きくなるからです。7)
DAPTとは?
2種類の抗血小板薬を併用することをDAPT(dual antiplatelet therapy:抗血小板薬2剤併用療法)と呼びます。抗血小板薬を1剤使用する場合と比較し、DAPTは血栓ができるリスクを減らすことができますが、出血のリスクは上昇してしまいます。DAPTの期間に関しては現在でも様々な議論があります。
虚血性心疾患の場合
狭心症や心筋梗塞などでカテーテル治療を受けた後や脳梗塞の後に短期間(1ヶ月〜1年など)行われることが多いようです。1,2)投与期間の決定には、病態の違い(ACSであるかどうか)、カテーテル治療の内容の違い(ステント留置の有無)、抗凝固薬の内服の有無や、血栓リスク、出血リスクが関係します。詳細に関しては主治医と相談してください。
脳梗塞、TIAの場合
長期間に及ぶDAPTは出血リスクが高くなるため、一般的には行われません。急性期に短期間行われることがあります。6)詳細に関しては主治医と相談してください。
抗凝固薬とは?
抗凝固薬は、血液を固める凝固因子の働きを抑えることで、血液が固まって血栓となることを防ぎます。主には血流の遅い血管などで血液が滞るために起こる血栓を予防します。ですので、心房細動のように心房の中で血流が停滞することで形成される血栓や、深部静脈血栓症などのように足の静脈で血流が停滞することで形成される血栓を予防します。
主な抗凝固薬
VKA(ビタミンK拮抗薬)
ワルファリン
ビタミンKの働きを阻害することで、血栓をできにくくします。ビタミンKを多く含む納豆や青汁などを食べてはいけません。薬の用量は個々人によって調節が必要で、また、食べ物などの影響を受けるため、薬が適正量にあるかを定期的な採血によって確認することが必要です。
直接経口抗凝固薬(DOAC)
ダビガトラン(プラザキサ)
1日2回内服します。副作用として消化器症状が出現することがあります。
リバーロキサバン(イグザレルト)
1日1回の内服です。Ccr≦49で10mgに減量します。
アピキサバン(エリキュース)
1日2回の内服です。体重60Kg以下、80才以上、Cr1.5mg/dL以上の3項目のうち、2項目以上に該当すると1回2.5mgに減量します。
エドキサバン(リクシアナ)
1日1回の内服です。体重60Kg以下、Ccr≦50、一部の薬を飲まれている方では30mgに減量します。出血リスクが高いと思われる方では15mgに減量します。
※減量基準は心房細動などで使用される場合であり、病気によっては減量基準が適応されないこともあります。
※抗凝固薬はそれぞれの薬の特徴に応じて選択されます。
※効果、副作用などの観点から、心房細動においてはワルファリンよりもDOACが推奨されています。
※機械弁を使われている方や腎機能の悪い方ではDOACを使用できず、ワルファリンの内服が必要となります。
実際の内服に関しては必ず主治医の指示に従ってください。
参考文献
1)日本循環器学会:2020 年 JCS ガイドライン フォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法
2)UpToDate:Long-term antithrombotic therapy for the secondary prevention of ischemic stroke
3)UpToDate:Management of claudication due to peripheral artery disease
4)UpToDate:Platelet biology and mechanism of anti-platelet drugs
5)UpToDate:Clopidogrel resistance and clopidogrel treatment failure
6)日本脳卒中学会:脳卒中治療ガイドライン2021(改訂2023)
7)UpToDate:Aspirin in the primary prevention of cardiovascular disease and cancer
・この記事は、より多くの方に病気に関しての知識を深めてていただく目的で執筆しています。病状ごとに、その方に提供される最善の医療は異なるため、治療方針に関しては必ず主治医にご確認ください。
・この記事は、信頼できる専門家の先生方が執筆、監修されているという観点、評価の定まっていない原著論文の引用を控えるという観点から、原著論文に加え、学会発行のガイドラインや、世界的に信頼され、参照されているデータベースであるUpToDateを積極的に参考文献として参照させて頂いております。
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文責:院長、認定内科医
最終更新日:2025/1/11