高血圧|原因・治療法・気をつけること【循環器専門医が解説】
✔高血圧は症状がないことも多く、サイレントキラーとも呼ばれます。放置すると狭心症や脳梗塞、腎不全など様々な病気の原因になることがあり、適切な治療が必要です。
✔血圧の目標値は状態によって異なります。基礎疾患のない75才未満の方では家庭血圧(お家で測った血圧)125/75mmHg未満、75才以上の方では家庭血圧135/85mmHg未満となっています。
✔高血圧の薬は色々な種類があります。当院では、個々人の状況にあわせて適切な薬を選択しています。
高血圧の薬の選び方についてはこちら
高血圧とその合併症
高血圧は、血圧が正常範囲を超えて継続的に高い状態を指します。血圧は、心臓が血液を動脈に送り出す力と、動脈壁が血流に対して抵抗する力によって決まります。
長期にわたる高血圧は、心臓(狭心症や心筋梗塞)、脳(脳梗塞や脳出血)、大動脈瘤、眼底出血や慢性腎不全(腎硬化症)など、様々な病気のリスクを高めます。
血圧の目標値
血圧の基準値は、年齢や病気によって変わります。1,4)また、家庭測定した値である家庭血圧と、診察室で測定する診察室血圧があります。下記は、家庭血圧(お家で測った血圧)の目標値です。
75歳未満の方: 125/75mmHg 未満
75歳以上の方 :135/85mmHg 未満
糖尿病のある方:125/75mmHg 未満
慢性腎不全(タンパク尿陽性)のある方:125/75mmHg 未満
脳血管障害のある方(両側頸動脈閉塞や脳主幹動脈閉塞のない方):125/75mmHg 未満
冠動脈疾患のある方:125/75mmHg 未満
※高齢の方でも、積極的に血圧を下げたほうがよい、というデータがあります。(SPRINT; Systolic Blood Pressure Intervention Trial)3)個々人の血圧の目標値に関しては、主治医とご相談ください。
高血圧の種類(原因)
本態性高血圧
原因がはっきりと特定できない高血圧のことで、高血圧の90%を占めると言われています。塩分の過剰摂取、加齢、運動不足、ストレス、喫煙、多量の飲酒、遺伝的要因(体質)、睡眠不足などがあります。
白衣高血圧
お家で測ると正常ですが、診察室などで測ると血圧が高くなることをいいます。血圧の管理は、家庭血圧をもとに行います。
二次性高血圧
血圧が上昇する病気が他にある場合の高血圧のことをいいます。
血圧が高くなる病気には、腎動脈狭窄、原発性アルドステロン症、褐色細胞腫などの病気が有名です。当院では、若い方での高血圧など、二次性高血圧が疑われる方にはスクリーニング検査を実施しています。
二次性高血圧のスクリーニング検査は、一部の内服薬では休薬が必要となります。また、朝の空腹時に行う必要があります。
いびきが大きい、日中の眠気がある、など睡眠時無呼吸症候群(特に、閉塞性睡眠時無呼吸)が疑われる方には、その検査、治療もおすすめしています。閉塞性睡眠時無呼吸については、こちらを御覧ください。
高血圧の症状
多くの高血圧の方は、特に目立った症状がありません。ですので、基本的には高血圧は無症状です、と説明しています。
しかし、血圧が非常に高い場合、頭痛、目のかすみ、息切れ、胸の痛みなどの症状が現れることがあります。これらの症状が現れた場合は、高血圧緊急症が疑われます。直ちに医療機関を受診してください。
高血圧の診断
高血圧の正しい診断には、ご家庭での血圧測定が重要です。特に、病院やスポーツジム、職場、健康診断などで血圧を測定すると、いつもよりも値が高くなってしまう方がいます。病院などで血圧が高くでる方は白衣高血圧とよばれ、一過性に血圧が高い場合は、特別な治療は必要のないことがほとんどです。ご家庭で血圧を測定、家庭血圧を記録していただき、血圧が基準値を上回る場合には治療が必要です。
血圧測定のポイント
- 朝夕2回血圧を測定しましょう。
- ガイドラインでは、朝の血圧測定は、起床後1時間以内、排尿後、朝食前、お薬を飲む前。夜は就寝前が推奨されています。夜は測定タイミングが難しいかと思いますが、夜寝る前やお風呂に入る前、など個々人の生活リズムにあわせて、毎日決まった時間に測定しましょう。
- 起床直後、入浴後(30分くらい)、運動後、飲酒後は血圧測定を避けましょう。
- 測定前には、5~15分程度安静にし、毎回同じ条件で測りましょう。
- 冬など、部屋が寒いときなどは血圧が上がりやすいので、部屋があたたまって、リラックスできる状態で測定しましょう。
- 左と右で血圧が10mmHg以上違う場合は、高い方の腕で測りましょう。
検査
採血で、腎機能などを含めたベースラインの確認を行います。また、二次性高血圧が疑われる方では、ホルモン値の血液検査やエコー検査が必要となることがあります。
尿検査により、1日の塩分摂取量を推定することが可能です。毎回同じ時間に検査をすることが望ましいとされています。
血圧を下げる生活習慣
高血圧の治療には、生活習慣の改善と薬物療法が大切です。
1)減塩(1日6g以下が目標です。)
2)減量:太り過ぎに気をつけましょう。
3)定期的な運動。
4)アルコールの摂取を控えめにしましょう。多量の飲酒は血圧を上昇させます。
5)禁煙。
高血圧の治療法(お薬)
降圧薬は主に下記の5種類がよく使用されます。それぞれの薬には特徴がありますので、主治医とよく相談してどの薬を使用するかを決めることが大切です。
カルシウムブロッカー
多くの方に使用します。まれに足のむくみがでることがありますので、その際は薬の変更が必要です。
ACE阻害薬・ARB・ARNI
心不全、腎不全、糖尿病などのある方には、こちらの薬を優先して使用します。腎機能などにより使用できないことがあります。
βブロッカー
高血圧に対して単独で処方される機会は少なくなっています。心不全のある方に優先して使用されることがあります。
サイアザイド系利尿薬
この薬は、腎機能の低下している方などでは注意が必要ですが、患者さんによってはとても効果を発揮します。腎機能、電解質(NaやKなど)異常に注意が必要であり、定期的な採血が推奨されます。
ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬
電解質異常に注意が必要です。
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まとめ
高血圧は「サイレントキラー」とも呼ばれ、症状が現れるまで気付かないことが多いです。未治療の場合、重大な健康問題につながる可能性があります。実際に、高血圧を放置してしまい、腎機能や心機能が大きく低下したり、動脈硬化が大きく進行してしまう方がいます。定期的な血圧測定と、適切な生活習慣の改善やお薬により、高血圧を管理し、健康な生活を送りましょう。
よくある疑問Q&A
血圧はいつ測定するのがいいですか?
家庭血圧の測定は、朝晩の2回がおすすめです。1)
毎日できるだけ同じ時間に測定してください。座って、リラックスしてから測定しましょう。
朝は、起床後1時間以内、排尿後、薬や朝食の前に測定しましょう。冬は、暖かいお部屋で測定しましょう。
夜は就寝前がおすすめです。入浴後は30分以上あけ、お酒を飲まれる方は、飲酒前に血圧の測定をすませましょう。
血圧を測定する前には、座って5分くらい安静にしてから測るのが望ましいですが、個々人のライフスタイルの中で、無理なく測れる時間帯を見つけ、うまく習慣化できるといいといいですね。
血圧計は何を買えばいいですか?
上腕(二の腕)で測定するものが推奨されています。1)手首で測るタイプを使っている場合には、かならず、血圧計の高さが心臓の高さ(目安は乳頭の高さ)にくるようにしてください。
血圧は家庭でも測る必要がありますか?
はい、家庭で測った血圧(家庭血圧)が重要です。1,2)
血圧は様々な影響を受けます。例えば、寒いところや、緊張した時は血圧があがる傾向があります。また、運動や飲酒でも血圧は影響を受けます。クリニックに来院し、人前で血圧を測ると血圧は高めにでることも多いかと思いますし、寒い冬の日などは、なおさらかと思います。
当院では、家庭での血圧測定をお願いし、その数値をもとに診察を行っています。
また、血圧計に関しては、手首式よりも上腕で測定するタイプをおすすめしています。
年をとると、血圧は高くても大丈夫ですか?
なるべくなら、低いほうがいいと考えられています。1,2,3)
高齢になると、血圧は高くてもよいという考えもありましたが、副作用がでない範囲で、なるべく若年者と同じように血圧が低いほうがよい、という考えが広まってきています。具体的には、SPRINTという臨床試験において、収縮期血圧を140mmHg未満を目標にして治療した人々と、120mmHg未満を目標にして治療した人々における75歳以上の人々が比較されました。その結果、収縮期血圧が120mmHg未満であった人々の方が、心筋梗塞や脳卒中、心不全、心血管死といったイベントが少なかった、という結果になりました。3)それ以降、血圧は、可能であればしっかりと低く保つという考えが広く受け入れられています。
血圧は高いほうが調子がいいのですが、このままでもいいですか?
いいえ、血圧は適正範囲内とすることをおすすめします。1,2,3)
血圧が高いと、動脈硬化の進行など健康にとっては良くありません。臨床研究の結果では、血圧はしっかりとコントロールするメリットが示されています。当院では、目標血圧に沿った適切な血圧コントロールを強くおすすめしています。
高血圧の薬は一度飲むとやめられないって本当ですか?
高血圧の治療は一生続くことが多いですが、血圧の数値が落ち着いていれば薬を飲むのをやめることができます。例えば、生活習慣がすごく乱れていて血圧が高かった人が、生活習慣の改善とともに血圧が正常値になれば、薬を飲む必要はありません。
一方で、血圧の薬を飲まずに高血圧を放置した場合よりも、血圧の薬を飲んで、しっかりと血圧をコントロールした方が体にとってはメリットが大きいです。
ですので、高血圧がある人は、将来の合併症を予防するために治療を続けていただきたいと思います。。
当院では、高血圧の薬の飲み方に関して、患者さんとしっかりと話し合いながら、最良の選択肢を見つけていきたいと考えています。
塩分を控えていますが、血圧がさがりません。
高血圧の原因は色々あり、塩分だけが原因ではありません。
減塩、など食生活を改善しても、血圧が十分に下がらないことがあります。その際は、他の薬剤の仕様なども検討が必要です。
また、1日にどれくらい塩分を摂取しているかを、尿検査で調べることができます。高血圧でお困りの場合は、一度主治医までご相談ください。
朝の血圧が高いですが、どうすればいいですか?
血圧測定や降圧薬内服のタイミングを変更することで改善することがあります。血圧は様々な状況の影響を受けます。朝落ちた直後、布団の中で測ると血圧は高めになることがあります。そのような場合は、起きてから、冬であればお部屋があたたまってから、トイレの後などに一息ついているタイミングで測るといいかもしれません。また、お薬を飲むタイミングや種類を変更することで、早朝の高血圧を改善できる場合があります。詳細は、主治医までご相談ください。
参考文献
1)日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2019
2)UpToDate:Overview of hypertension in adults
3)N Engl J Med 2015;373:2103-2116
4)日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版
・この記事は、より多くの方に病気に関しての知識を深めてていただく目的で執筆しています。病状ごとに、その方に提供される最善の医療は異なるため、治療方針に関しては必ず主治医にご確認ください。
・この記事は、信頼できる専門家の先生方が執筆、監修されているという観点、評価の定まっていない原著論文の引用を控えるという観点から、原著論文に加え、学会発行のガイドラインや、世界的に信頼され、参照されているデータベースであるUpToDateを積極的に参考文献として参照させて頂いております。
・記事の内容に不備、誤りなどありましたら、当院までご連絡いただけますと幸いです。正しい医療知識の普及のため、専門医をはじめとしたプロフェッショナルの方からのご意見・フィードバックを、是非ともお願いいたします。
文責:院長、認定内科医、循環器専門医
最終更新日:2025/1/8