心筋症とその種類【循環器専門医が解説】
心筋症とは?
心筋症とは、心臓の筋肉(心筋)が正常に機能しなくなる病気の総称です。
心筋症の定義は、「冠動脈疾患、高血圧、弁膜症や先天性心疾患など、心筋異常を説明するのに十分な原因がない場合で、心筋が構造的および機能的に異常を示す病気」1)とされており、しばしば遺伝的な要因が関与しています。高血圧や狭心症(心筋の虚血)、弁膜症などが原因で心臓の収縮が弱くなったりしている場合は、分けて考える必要があります。
具体的には、心筋が分厚くなったり、収縮が弱くなったりすることで、心臓が血液を十分に送り出せなくなったり( =心不全)、不整脈を起こしやすくなったりします。
心筋症の種類
心筋症は、下記のように分類されます。1-3)
拡張型心筋症(Dilated Cardiomyopathy, DCM)
心臓の収縮力の低下と、心腔の拡大、壁の菲薄化が起こります。基本的には左心室でこのような変化が起こりますが、左房や、時として右心系でも心腔の拡大や収縮力の低下がおこります。1)
血液を十分に送り出す能力が低下するため、心不全の症状が出現したり、命に関わる不整脈(致死性不整脈)が出現します。
原因としては、遺伝子変異(遺伝性のもの)や、ウイルス感染、自己免疫による機序が考えられています。
日本においては、軽症を含めた拡張型心筋症の有病率は2,000人に1人と考えられています。2)
拡張型心筋症と似た病態を呈するものとしては、拡張相肥大型心筋症、不整脈原性右室心筋症、左室緻密化障害、虚血性心筋症、高血圧性心筋症、心サルコイドーシス、アミロイドーシス、心筋炎、アルコール性心筋症、薬剤性心筋症など多岐にわたります。2)
肥大型心筋症(Hypertrophic Cardiomyopathy, HCM)
心筋が異常に厚くなり、心臓が硬くなります(拡張能が低下します)。また、肥厚する部位によっては、心室内の血液の流れが妨げられることがあります。
息切れなどの心不全症状や、胸痛、不整脈などが出現します。時として、命に関わる不整脈(致死性不整脈)となることもあり、注意が必要です。
また、心房細動を発症した場合には、心原性脳梗塞を発症するリスクが高くなることが知られています。2)
血液は、左心室から大動脈へと拍出されますが、この心臓の出口(左室流出路)のところが狭くなってしまうものを、閉塞性肥大型心筋症と呼びます。
肥大型心筋症は遺伝性の場合が多く、突然死のリスクを伴うことがあります。原因としては、多くの遺伝子異常との関連が報告されています。肥大型心筋症の方の60%に家族歴があります。2)
有病率は500人に1人と考えられています。2)
肥大型心筋症と似た病態を呈するものとしては、スポーツ心臓、高血圧性心筋症、大動脈弁狭窄症、心サルコイドーシス、アミロイドーシスなど、多岐にわたります。2)
不整脈原性右室心筋症(Arrhythmogenic right ventricular ϲаrԁiοmуοрathу, ARVC)
主に右心室の筋肉が進行性に障害を受ける疾患で、心筋が脂肪組織や線維組織に置き換わります。この変性によって、心室の収縮力が低下したり、致死性不整脈を起こしてしまいます。
拘束型心筋症(Restrictive Cardiomyopathy, RCM)
心筋が硬くなり、心臓が十分に広がることができなくなります。
分類不能心筋症(Unclassified cardiomyopathies)
症状
心筋症の症状は種類や重症度によって異なりますが、一般的には心不全や不整脈の症状が起こります。
心不全症状
息切れ、むくみ(特に足)、疲労感
不整脈の症状
動悸や失神・めまい
虚血の症状
胸痛
診断方法
基本的な検査
心電図、心エコー、採血(NT-proBNPなどのバイオマーカー)で基本的な心機能の把握を行います。
さらに詳しい検査
上記の検査に加えて、必要に応じて以下のような検査を組み合わせることで、さらに原因を詳しく調べます。
心臓MRI、心臓カテーテル検査・心筋生検、核医学検査、遺伝子検査などが行われます。高次医療機関での検査となります。
治療法
心筋症の治療は、病気の種類や重症度によって異なりますので、詳しくは主治医の先生とご相談ください。
主には心不全や不整脈の管理が行われます。ここでは、主なものを簡単に紹介していきます。
薬物療法
心保護薬や、むくみなどのうっ血を改善する目的で利尿薬が用いられます。
薬物療法に関しては、心不全のページもご覧ください。
また、不整脈に対して、抗不整脈薬が用いられることがあります。
拡張型心筋症
拡張型心筋症では、βブロッカーを用いることで、心収縮が改善することがあります。また、βブロッカーでの治療により心収縮が回復したたあとも、βブロッカーの内服をやめることで、再度心機能が悪化することが報告されています。2)
その他、心保護薬などの心不全を改善するお薬や、不整脈に対するお薬が使われます。
肥大型心筋症
肥大型心筋症では、心筋が分厚くなることで、冠動脈に異常がなくても(狭心症などがなくても)、胸痛が起こることがあります。その際には、βブロッカーなどが用いられます。また、過収縮を防ぐ目的で、βブロッカーや、カルシウムブロッカーが用いられることがあります。
デバイス療法
ペースメーカー
徐脈となってしまう場合では、ペースメーカによる脈拍の補助が必要となることがあります。
植え込み型除細動器(ICD)
致死性不整脈(心室細動(VF)や、心室頻拍(VT))をおこす場合などでは、植込み型除細動器が必要となることがあります。
心臓再同期療法(CRT:Cardiac Resynchronization Therapy)
心収縮が低下すると、心不全を改善する目的で、心臓再同期療法が行われることがあります。
外科的治療
肥大型心筋症の場合、肥厚した部分を切除する手術や、カテーテル治療により肥厚した部分を意図的に壊死させることで、肥厚を低減する治療が行われることがあります。
生活習慣の改善
状況に応じてことなりますが、心不全の方では、塩分制限(1日6g)、適度な運動、禁煙、節酒、体重管理などが推奨されます。
心臓移植
重症の場合には心臓移植が検討されることがあります。
参考文献
1)UpToDate:Definition and classification of the cardiomyopathies
2)日本循環器学会:心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)
3)Elliott P, et al. Eur Heart J. 2008;29(2):270-276. doi:10.1093/eurheartj/ehm342
・この記事は、より多くの方に病気に関しての知識を深めてていただく目的で執筆しています。病状ごとに、その方に提供される最善の医療は異なるため、治療方針に関しては必ず主治医にご確認ください。
・この記事は、信頼できる専門家の先生方が執筆、監修されているという観点、評価の定まっていない原著論文の引用を控えるという観点から、原著論文に加え、学会発行のガイドラインや、世界的に信頼され、参照されているデータベースであるUpToDateを積極的に参考文献として参照させて頂いております。
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文責:院長、循環器専門医
最終更新日:2025/1/16