慢性腎不全【内科医が解説】原因、検査、治療法
✔腎機能を保護するためには、高血圧、糖尿病の治療や、適切な腎保護薬の内服が必要です。当院では、採血でのフォローアップや尿検査に取り組んでいます。
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慢性腎不全とは?
腎臓は体内の余分な水分や廃棄物を取り除く役割を担っています。腎臓の機能が低下しても、腎機能が大きく低下するまでは無症状で経過することが多く、注意が必要です。
GFR<60mL/分/1.73m2または、タンパク尿(尿蛋白/Cr比が0.15g/gCrや尿アルブミン/Cr比が30mg/gCr以上)などの項目が3ヶ月以上持続することが診断基準に含まれています。5)
下記は、慢性腎不全の重症度分類です。尿タンパク、尿アルブミンの測定(定量検査)が大切です。5)
文献5:日本腎臓病学会:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023より抜粋
代表的な原因
糖尿病(糖尿病性腎臓病)
腎機能の低下は糖尿病の3大合併症のひとつです。
高血圧(高血圧性腎硬化症)
血圧が高い状態が続くと、腎臓へのダメージが進行します。診断時には高血圧でなくても、過去の高血圧、加齢などの影響で腎硬化症を呈することがあります。一般的には尿潜血は陰性、タンパク尿も高度でないことが多いです。5)
腎動脈狭窄症
腎動脈の狭窄により、腎臓への血液の供給や血圧が低下し、腎機能が低下します。
多発性嚢胞腎
腎臓に嚢胞がたくさんできる遺伝性の疾患です。
腎炎
いろいろな種類の腎炎があります。
症状
慢性腎不全の初期段階では、症状がほとんどないことが多いですが、状態が進行すると以下のような症状が現れることがあります。多くの場合、血液検査で初めて指摘されることが多いです。
足などのむくみ
息切れ
疲労感
食欲不振
検査
血液検査
多くの場合、eGFRが腎機能の指標として用いられます。eGFRはCr(クレアチニン)の値をもとに算出されます。これは、クレアチニンは年齢や性別、筋肉量などの影響を受けるためです。
また、腎機能が低下した方では、特にカリウムなどの電解質の値や、カリウム、リンといった数値に異常をきたすことがあります。
カリウムに関しては、4.0-5.5mEq/Lの範囲が推奨されています。5)
尿検査
尿検査では尿潜血や尿中のタンパク量を測定します。1日の尿タンパク量を正確に測定するためには24時間蓄尿が必要ですが、あまり現実的ではありません。そのため、1回の尿の中に含まれるタンパクと、クレアチニンを同時に測定し、計算をすることで、1日の尿タンパク量を推定することができます。(尿タンパク/クレアチニン比と呼びます。)糖尿病の方で、尿蛋白が定性検査で1+未満の方は、アルブミン尿を測定します。
早朝尿によるタンパク尿の検査
タンパク尿は病気とは関係のない、生理的タンパク尿の場合があります。
生理的タンパク尿には下記の2種類があります。
体位性タンパク尿
起立時などにタンパク尿が出現します。
機能性タンパク尿
激しい運動や発熱、ストレスなどで出現します。
そのため、タンパク尿が陽性であった場合は、前日就寝前に排尿し、朝起きた時の尿を採取して検査をすることで、これらの生理的タンパク尿を除外することができます。当院では、タンパク尿の検査が必要な方には事前に検尿の容器をお渡しし、早朝尿を持参していただくことがあります。
糖尿病性腎臓病とアルブミン尿
糖尿病の大切な合併症のひとつに、糖尿病性腎臓病があります。糖尿病性腎臓病では、蛋白尿が出現するよりも前に、尿中からアルブミン(タンパク質の一種)が検出されます。このアルブミンの増加が、糖尿病性腎臓病の重要な予後予測因子となることがわかっているため、糖尿病があり、蛋白尿がはっきりしない方は、尿中のアルブミンの検査を行います。(定性検査で尿蛋白1+以上の方は、尿蛋白の定量を行います。)
尿アルブミン/クレアチニン比が30〜299mg/gCreを微量アルブミン尿、300mg/gCreを超えるものを顕性アルブミン尿とよびます。微量アルブミン尿が検出された場合にも、糖尿病による腎臓の障害が示唆されるため、早期に腎臓を保護するお薬を飲むことが推奨されています。1)
超音波検査
初めて慢性腎不全を指摘された方では、超音波検査により、腎臓にその他の病気がないかどうかを確認することもあります。
病状によっては、より詳細な項目の検査や、腎生検を含めたさらなる精密検査が必要となることがあります。専門的な治療が必要と判断した場合には、当院より速やかに高次医療機関にご紹介させていただきます。
治療
慢性腎不全の治療は、病状の進行を遅らせることに重点を置いています。
生活習慣の改善
減塩(1日6g以下)、禁煙、減量が大切です。
血圧の管理
血圧をしっかりとコントロールすることがとても大切です。具体的には、75才以上で糖尿病がなく、タンパク尿がない方(タンパク尿区分A1の方)は家庭血圧135/85mmHg以下、それ以外の方は125/75mmHg以下が推奨されています。5)
血糖の管理
糖尿病のある方では、血糖値をしっかりとコントロールすることが大切です。HbA1cを7%未満とすることが一般的には推奨されています。5)
薬物治療
ACE阻害薬、ARB、SGLT2阻害薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)などが用いられます。特に、蛋白尿が0.500-1g/gCrを超える場合や、糖尿病の方でアルブミン尿が300mg/gCrを超える場合は、血圧コントロールに加えて、ACE阻害薬やARB、SGLT2阻害薬が強く推奨されます。2,4,5)
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その他、尿酸値やコレステロールの値に注意する必要があります。5)
慢性腎不全の方に限りませんが、口腔ケアが推奨されています。5)
慢性腎不全が進行すると、透析治療や腎移植が必要になることがあります。
まとめ
慢性腎不全は、早期に発見し適切に管理することで、進行を遅らせることが可能です。症状に気がついたら、早めに医療機関を受診しましょう。当クリニックでは、血液検査、尿検査、腹部エコー検査を含め、慢性腎不全の診断、治療、および管理に関する相談を受け付けております。
よくある疑問Q&A
どうすれば腎機能は回復しますか?
多くの場合、慢性腎不全で腎機能がある程度まで低下してしまった場合に、腎機能は回復することはありません。腎機能はCrという採血項目で測定しますが、この数値は体の中の水分量が少ないと上昇し、腎機能の数値としては悪くなります。そのため、例えば夏よりも冬に腎機能の数値がよくなり、回復しているみえることがあります。
慢性腎不全の治療は、その進行を遅らせることが主な目的です。そのため、血圧や糖尿病の管理や減塩などを行ったり、お薬を飲む必要があります。
コーヒーは腎臓にいいって本当ですか?
コーヒーを飲むと慢性腎不全の進行が抑制されるかもしれない、と2023年の腎臓学会のガイドラインでは記載されています。1日2杯以上のコーヒー摂取はコーヒー1杯以下よりも慢性腎不全の進行抑制に有益であったという内容です。5,6)コーヒーが嫌いでなければコーヒーを飲むことはいいことかもしれません。
水はたくさん飲んだほうがいいですか?
2023年の腎臓学会のガイドラインでは、「特に飲水量を増やさなくてもよい」と記載されています。5)夏場などは脱水に注意し、水分摂取を心がけてください。
その他、ガイドラインで推奨されていることはありますか?
2023年の腎臓学会のガイドラインでは、減塩、禁煙、減量や薬物治療の他にも、十分な睡眠、適度な運動、ワクチン摂取が推奨されています。5)
参考文献
1)UpToDate:Moderately increased albuminuria (microalbuminuria) in type 2 diabetes mellitus
2)UpToDate: Antihypertensive therapy and progression of nondiabetic chronic kidney disease in adults
3)UpToDate:Overview of the management of chronic kidney disease in adults
4)UpToDate:Treatment of diabetic kidney disease
5)日本腎臓病学会:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023
6)J Ren Nutr. 2021 Jan;31(1):5-20.
この記事は、腎臓専門医・透析専門医のレビューを受けています。
・この記事は、より多くの方に病気に関しての知識を深めてていただく目的で執筆しています。病状ごとに、その方に提供される最善の医療は異なるため、治療方針に関しては必ず主治医にご確認ください。
・この記事は、信頼できる専門家の先生方が執筆、監修されているという観点、評価の定まっていない原著論文の引用を控えるという観点から、原著論文に加え、学会発行のガイドラインや、世界的に信頼され、参照されているデータベースであるUpToDateを積極的に参考文献として参照させて頂いております。
・記事の内容に不備、誤りなどありましたら、当院までご連絡いただけますと幸いです。正しい医療知識の普及のため、専門医をはじめとしたプロフェッショナルの方からのご意見・フィードバックを、是非ともお願いいたします。
文責:院長、認定内科医
最終更新日:2025/1/11